早稲田まちづくりシンポジウム

早稲田まちづくりシンポジウム2017、【地域の持続のかたちを考える−千年を生き続けた知恵を活かし、ふるさとの暮らしを未来につなげるために−】に、セッションのコーディネーターとして参加しました。
http://www.toshiforum.arch.waseda.ac.jp/sympo.html
セッション1は、石川先生、二井先生、稲葉先生のおかげで、質の高い討議になりました。
シンポ全体も、多くの示唆があり、今後の勉強の励みになりました。

さて、セッション1の趣旨説明は予稿集に掲載されましたが、その下書きは長すぎてカットしたので、ここに掲載しておきます。
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生きた資料としての地域をどう読むか

                  山口 敬太(京都大学)

1.資料としての地域
 地域は生き物であり、その「環境のかたち」としてのランドスケープは、読み解くべき資料(ドキュメント)であり、アーカイブである。そこには、数百年から千年の時間単位で、固有の自然条件のなかで育まれてきた地域に独特の生き方、住み方、暮らし方が、まさに形となってあらわれている。こうした資料から、現代を生きるわれわれは何を学べるのか。それをどのように読み解くのか。読み解いた結果をどう活かすことができるのか。セッション1「環境のかたち」ではこれらを主題として取り上げ、議論を深めたい。

2.「地域らしさ」を捉える
 地域は時代とともに変わる。しかし、ある地域が、その「地域らしさ」を保って持続するとはどういうことなのか。その地域らしさを失わない変化の「許容量」が仮にあるとするならば、それはどのように見出されるのか。いずれにせよ「地域らしさ」は地域の持続を考える上での重要な指標となる。
 カルチャル・ランドスケープの保全の文脈では、ランドスケープの歴史・文化的キャラクターをめぐる議論が活発である。その観点は、土地利用や地割・敷地構成、町並みや個別要素(形態・素材)などのランドスケープの物理的・視覚的特徴にとどまらない。ランドスケープの要素間の関係性や相互作用、機能とその連関やシステムとしての読み解きが試みられている。たとえば、
・自然条件とその活用形態(地形、水資源と集落の立地・形態など)
・生業・生活インフラの構造(水系、道、交通など)
・危機管理のシステム(災害防備など)
・景観をつくる技術(建設、材料加工、農業土木などの技術)
・コミュニティを支える慣習・文化(祭りなど)
などの観点から、ランドスケープを成り立たせる仕組みを読み解くことで、その固有性を浮かび上がらせることができる。まだまだ多様な価値の捉え方、読み取り方があるだろう。
 また、地域はそこに長く住む住民にとっては特別な存在である。「地域らしさ」はそこに暮らす住民によって認識される。そこに住む人々の認識やアイデンティティの議論なしには地域の問題は捉えきれない。実際、それは地域の持続にも大きく関わる。たとえば、生業・生活・生計の記憶(個人の記憶/社会的に共有されるコミュニティの記憶)は、住民の地域認識や地域愛着に大きく関わると考えられる。このような記憶と、それらを想起させる空間や過去の痕跡も、「地域らしさ」を考える重要な手がかりとなるだろう。

3.地域の持続のありかたを考える
 今現在かろうじて存続している、地域の生き残りの仕組みや知恵、そこにある個性(地域らしさ)を読み取ることから、いかにして地域の持続へと結びつけられるだろうか。セッションでは、地域の持続を支える新たな社会的仕組みのありかたについて、議論を深めたい。
 私見だが、ある地域に暮らす人々にとって、その地域の記憶・歴史とともに生きることは、その地域に「住み続ける理由」となり得るのではないか、と考える。「わたしたち」の地域というアイデンティティが強ければ、それはコミュニティや住民個人のアイデンティティを支え、地域の維持・再生活動の源となり得るだろう。とすると、「地域らしさ」は地域の持続を支える柱となるのではないか。地域らしさのなかに潜む、生きた証、生きる知恵は、これからもそこで暮らす人々にとって、かけがえのない遺産なのである。
 では、専門家の役目は何か。「地域らしさ」を探り、読解し、記録や説明をし、地域らしさに対する認識を高めることであろう。それは既にそこにあるのではなく、知的活動によって見出されるものである。さらに、地域が持続するための課題や脅威を把握し、それを人々と共有するとともに、今後の地域が存続する可能性と具体的な方向性を探り、地域らしさそのものをより高めていく。そして、できることから実践する、ということであろう。これらのための専門技術の高度化が期待される。

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