加速化する都市のモーダルシフト
交通エコロジー・モビリティ財団の環境的に持続可能な交通(EST)のメールマガジン「環境的に持続可能な交通を目指して」第197号(2022.12.26)に寄稿しました。以下、転載します。
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2022年9月、4年ぶりに欧州の都市を実地調査し、この数年の劇的な変化に驚きました。EUROPEAN MOBILITY WEEKに合わせて訪れ、パリをはじめとするカーフリー・イベントに参加したのですが、自家用車から公共交通・徒歩・自転車への転換の流れは、従来から一段階も二段階もギアを上げて加速しているように感じました。ロンドン、パリ、バルセロナなどの主要都市では、都市中心における自転車や歩行者のための道路空間再配分が急拡大し、自転車専用レーンや歩行空間・広場の整備が急速に進んでいます。
英国の「Streetspace for London」など、コロナ禍の危機対応による大規模な財政出動が、歩行・自転車施策の実現を大いに後押ししました。他都市でも同様です。もちろん、コロナ禍以前より、「Paris Respire(呼吸するパリ)」のように、窒素酸化物などの大気汚染物質の削減や、温室効果ガスの排出削減などが図られ、都心の商業の活性化などとあわせた政策目標の達成が図られてきました。
しかしながら、従来の取り組みのスケールを越えるような、大規模かつ面的なカーフリーの推進や、幹線道路の歩行者空間や道路公園への転換(ブリュッセル)、幹線道路の一部区間・時間帯での自家用車の車両通行止め(バス・自転車専用レーン化)や一方通行化の様子などを目の当たりにすると、これまでとはフェーズが変わった、と実感せざるを得ませんでした。
やはり、都心部における自家用車の利用を減らすことを政策目標として掲げ、思い切った施策を強力に推進できるということが非常に大きいなと感じました。たとえ道路の渋滞が起こったとしても、都心の自動車交通量を減らすことを前提としていることで、時に政治主導で、「攻め」の姿勢で道路空間の再配分が進められます。もちろん公共交通やシェアサイクルの充実と一体です。
駅前なども、車道の部分地下化や立体道路によって、広場・歩行者空間整備が進んだ事例もいくつかみられました。地下駐車場を整備して路上駐車分を地下に移し、地上を人のために利用する、という大きな流れができています。また、質の高い都市空間実現のためにデザイン競技が実施されています。
都市の空間に対する人々の価値観の変化というのも大きいと思いますが、それとともに都市の経済戦略の変化が大きいと感じます。すなわち、都市間競争の激化を背景に、「道」への公共(再)投資が重要になっています。公共空間の価値向上によって、エリアの価値を向上させ、民間投資を促進したり、人と事業者の集積を促すことが、ますます重要な施策になっているということです。
そう考えると、この加速化する都市のモーダルシフトは、都市空間の機能強化・機能転換という都市戦略の一環であるともいえますね。
このような海外の動向は、ウォーカブルなまちづくりを進めようとしている日本の各自治体にも、参考になるところが大きいと感じました。また折に触れて紹介いたします。