景観・デザイン分野 案内

新学期が始まりました。景観や公共デザインという専門分野(ここでは景観・デザイン分野と称します)は、初学者にとっては、どういう専門知識・技術を、どのように身につければよいかが、分かりにくいと言われます。分野の案内のために、少しだけ解説します。

誤解をおそれず、非常に簡単に言ってしまえば、景観・デザイン分野の専門性、技術は下記の2点にあります。

① 景観にはいろんな情報・意味が含まれます。そこからまちづくりのための有益な情報を読み取り、きちんと評価する技術です。まちや景観の成り立ちや環境特性、社会構造、文化固有性、人の認識(思い、記憶など)、地域課題など。これが②の基礎ともなります。

② 景観を手がかりにまちを改変する場合、その可能性を的確に把握し、それを実現する計画・設計の方法を導出する必要があります。(①から読み解いた情報を基に)さまざまなスタディ(シミュレーション)をしつつ、実現可能な最適解を探る。ここには都市・地域の諸計画、空間や構造物の設計も含みます(これだけでも大変)。さらにそれを実現するプロセスの検討や合意形成。これらに関わる諸技術です。

実社会の中で大学(研究室)に求められている専門性は、まずは①(読み解きと価値評価)です。国内では業務になりにくく実務者・専門家が少ないという事情もあります。
②(計画・設計等)はもちろん実社会で広く求められていて、専門の実務者も多いですが、①をふまえた上での②というアプローチは、大学の研究室だからこそ深く学べる専門領域といえます。
これらの技術やマインドをもった専門家の育成が研究室のミッションであり、社会における研究室の存在価値にもなります。

①②の流れを図で示すとこんな感じ(『まちを再生する 公共デザイン』に掲載した図の再掲)。

 

<景観システム>の読み解きから、スタディ、介入までのイメージ

 

 

①②のいずれも習得するには時間がかかりますが、こういう取り組みは1人ではなくチームで取り組みますので、まずは自分が最も得意なポイントをみつけて鍛えることが大事かと思います。

自分が何に関心があるのか、何が得意なのか、いろいろやってみないと分からないですので、それを見極めるためには、大量のインプットとアウトプットを短期間で行うことが有効です。研究室で初学者におすすめする入門書33冊を挙げていますので参考に。できれば全冊1年以内に読んで欲しいです。それでまずは基礎体力=考えるための一定のセンスが身につくと思います。

特に歴史から読み解く力は、視野の広さ・深さに直結しますし、若いうちからじゃないとなかなか鍛えられないですので、ぜひ地道に勉強して身につけてもらいたいと思います。

あとは、ひたすら足を動かし(現場を観る)、手を動かし(スタディ)つつ、デザイン・ボキャブラリの習得ですね。引き出しをたくさん作りながら、センスを磨き続けることが重要です。好きこそ物の上手なれ、です。

最後に。私の恩師(樋口忠彦先生)が、恩師(鈴木忠義先生)の恩師(本多静六先生)の言葉として、
「人生最大の幸福は、その職業の道楽化にある。」
をしばしば学生諸君に紹介されていました。ご自身にも重ねられてたように思いますし、私も多分に感化されました。
道楽に至るのは簡単ではないですが、専門性を確立して、自分のやりたい仕事を続けるのは可能と思います。