2012
今年1年は,これまでの研究のとりまとめやドイツでの勉強に取り組んだが,振り返れば
これらを通じて,自分の立つべき位置が非常にクリアになった1年であった.
特にドイツの留学の期間中,ほぼ3ヶ月の間,一つのフィールドを深く知り,また
自分と向き合う時間を得たことによって,それまでに断片的に考えていたいろいろな
思考が,数珠つなぎになって,一つの体系的計画論として意識できるようになったことは
大きな収穫であった.
また,これまで研究についても自分の立つべき位置,つまり身につけるべき専門性やその技術
(技法)の方向性が見えた.これについてメモを残しておく.
自分がこれから取り組んでいく研究テーマは,いずれも,景観=見え,を研究の主題とするのではなく,
「景観を成り立たせている原理」を研究の主題とする.
なかでも歴史のなかに景観の本質を探る,というアプローチをとる.
・都市形成史研究
景観とは歴史の重層である.都市空間の形成要因は,大きく
1) 自然環境条件など自然発生的な形成
2) 政治や社会状況など人為による形成
に分けられるが,このうち後者に着目して,景観の動態的形成過程を把握し,
それにより景観の本質を知る,というのが,「都市形成史研究」の目的である.
動態的形成の要因を知ることが目的であり,単に歴史的事象を探ることが目的ではない.
たとえば,都市の形成において,どういう理念があって,どういう実態があったかを知ることで
それを探る.研究対象には,景観(特に良好な景観)の形成に寄与した現象を取り上げる.
このような都市施策に対する批判・検証の目を養うことは,実践においても大きな助けとなる.
・文化的景観の復元的研究
資料をもとに歴史的景観の過去の状態を詳細に明らかにする.
そして,景観を作り上げてきた人々の暮らし(生活,生業,産業)の内実を明らかにする.
この作業を通じて景観の固有性を探る.これらの作業が風景づくりの重要な基礎となる.
文化的景観の調査研究と,保全活用計画の策定の実践との,双方の視点から研究を進めていきたい.
・風景史研究
イメージと実態の時間軸上の相互作用(通態性)を明らかにする.
景観に対するイメージは,それが支配的であるほどその地域の景観形成に大きく影響する.
景観の固有性とイメージの固有性,それらの相互作用的な発展過程を明らかにし,良好な景観の
形成原理を探る.
景観の動態的形成過程を把握するという点で,「都市形成史研究」とは近いが,
「景観表象」を研究対象として取り上げる点で,すなわち,どういう景観表象がどのような景観形成に
影響を与えたかをみるという点で異なる.
上記はすべて歴史研究のアプローチを展開させたものである.これらは一部重なりあっている.
一方で,計画技術に関する研究も発展させたいと考えている.
一つは眺望景観計画,地形を活用した景観デザインをめぐる技術である.
もう一つ,可能性として,ドイツ地域計画の事例研究とその知見に基づく計画技術の開発を挙げる.
歴史的構造物・インフラの転用,地域の景観「拠点」とその高質化およびネットワーク化・領域化の
方法論を探るとともに,「景観公園」の日本における適用可能性を探る.
これはこれからだ.
また,上記研究課題に関連して実践研究も進めたいと考えている.
ただし,実践活動を行うにあたり,ほかの人やチームにはできないようなオリジナリティの模索が
不可欠であると考える.特に研究成果の実践への還元という点で,オリジナリティを模索したい.
そうでない実践は基本的にはやらない,という考えだ.
以上,文章に書くと簡単だが,自分の中では,この上記の研究課題に絞り込んで今後研究を進めて
いきたいとクリアに考えるに至ったことは大きな収穫である.
選択と集中の問題であり,今後しばらくは「集中」のフェーズであるということだ.
というわけで2012年よ,さようなら.2013年よ,こんにちは.
補足
景観の研究というのは基本的には「見え」の研究から始まった.
「どう見えるのか=見え方」が問いのベースにあり,それが人にどう知覚され,どういう
行動を誘発するのか,ということを明らかにすることが重要な議題であった.
そしてある意味それが土木の景観工学分野のオリジナリティであったわけだ.
最近の景観研究はより広がりを持ち,隣接分野の研究分野と融合しつつあるが,逆に
言えば,「見え」にとどまらないため,景観工学分野のオリジナリティに守られなく
なったともいえる.その隣接分野で新たな研究分野を開拓しているのか,それとも単に
食い物にしているだけか,というのは常に反省しておかなければならないだろう.
僕も「見え方」の研究の意義も理解しているつもりである.が,一方でその限界も感じている.
今も,どうにかそのオリジナリティを継承しつつ,新たな研究分野を開拓したいとは思っている.
しかし,有力な方法論を見つけられておらず,なかなか「見え方」をベースにした景観研究の
展開は難しいというのが私見である.